東京高等裁判所 平成9年(行ケ)287号 判決 1998年11月10日
香川県高松市新田町甲34番地
原告
株式会社タダノ
代表者代表取締役
多田野榮
訴訟代理人弁理士
大浜博
東京都品川区東大井一丁目9番37号
被告
株式会社加藤製作所
代表者代表取締役
加藤正雄
訴訟代理人弁護士
野上邦五郎
同
杉本進介
同
冨永博之
同弁理士
御園生芳行
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1 原告が求める裁判
「特許庁が平成9年審判第1410号事件について平成9年10月8日にした審決を取り消す。」との判決
第2 原告の主張
1 特許庁における手続の経緯
被告は、発明の名称を「トラッククレーンにおけるアウトリガ」とする特許第1665937号発明(以下「本件発明」という。)の特許権者である。なお、本件発明の特許は、昭和52年9月7日出願の昭和52年特許願第106799号の一部を新たな特許出願とした昭和55年特許願第62781号の一部を更に新たな特許出願とした昭和63年特許願第225259号に係るものであって、平成2年3月27日の出願公告(平成2年特許出願公告第12781号)を経て、平成4年5月29日に特許権設定の登録がされたものである。
原告は、平成9年1月29日、本件発明の特許を無効にすることについて審判を請求し、平成9年審判第1410号事件として審理された結果、平成9年10月8日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を受け、同年10月27日にその謄本の送達を受けた。
2 本件発明の特許請求の範囲1(別紙図面参照)
車体フレーム下側の横方向に設けた二重樋状案内部材の両案内路の互いに対向する一端部上側位に、端縁が当該車体巾一杯に延びる筒状アームを配し、該筒状アームの基部を前記車体フレームの側壁部に固着すると共に、前記筒状アームの底板下面が、前記両案内部に伸縮可能に挿入され、断面が長方形状をなす水平ビーム頂壁の受面として構成され、かつ、前記筒状アーム底板端部に、前記水平ビーム端部に突設された伸縮支脚上部の遊嵌可能な外開き切欠を形成すると共に、該外開き切欠まわりの側板下部に、前記水平ビーム頂壁の受面を有する補強片を一体状に設けたことを特徴とするトラッククレーンにおけるアウトリガ。
3 審決の理由
別紙審決書「理由」写しのとおり
4 審決の取消事由
審決は、無効理由1について、原告主張の点について本件明細書の記載に格別の不備があるとは認められない旨誤って判断した結果、原告の特許無効請求を退けたものであって、違法であるから、取り消されるべきである。
(1)すなわち、審決は、二重樋状案内部材の構成について、「「二重樋状案内部材」は、(中略)「頂部が開放した断面コ字状のもの」としてその構成を特定することができる」と説示しているが、この説示は二重樋状案内部材の断面形状を述べているにすぎず、二重樋状案内部材をどのような長さとし、これをどのようにして車体へ連結するのか全く判断していないから、審決の上記説示は失当である(本件明細書に記載されている実施例では、二重樋状案内部材は「かすがい状支持部材」によって車体に連結されているが、本件発明は「かすがい状支持部材」を要件とするものではない。)。
(2)また、審決は、筒状アームの配設位置について、「「二重樋状案内部材の両案内路の互いに対向する一端部上側位」は、「二重樋状案内部材の互いに対向する両案内路の一方の端部の上側位置あるいは上方」と解され、これらの点に不明瞭性はない」と判断しているが、この判断は上記の二重樋状案内部材の断面形状のみを論拠とするものであって失当である。
(3)そうすると、本件明細書には本件発明の要件である二重樋状案内部材の構成が明確に記載されていないといわざるをえず、その結果として、筒状アームの配設位置も不明確とならざるをえない。したがって、本件発明の特許出願が特許法36条4項及び5項(昭和60年法律第41号による改正前)に規定する要件を満たしていないことは明らかであって、無効理由1を退けた審決の判断は誤りである。
第3 被告の主張
原告の主張1ないし3は認めるが、4(審決の取消事由)は争う。審決の認定判断は正当であって、これを取り消すべき理由はない。
1 原告は、本件明細書には本件発明の要件である二重樋状案内部材の構成が明確に記載されていない旨主張する。
トラッククレーンの水平ビームに生ずる極圧(別紙図面第11図のR)は、車体巾(同図のB)の最も外側で受けるのが合理的であるが、道路上の走行する際は伸縮支脚(同図の4)をB内に収納せざるをえないので、従来の構成では、第11図に図示されているように、RをBの最も外側で受けることができなかった。本件発明の要件である二重樋状案内部材は水平ビームをその内部に収納し摺動させて案内する部材であるが、本件発明は、二重樋状案内部材を上方を開放した樋状にし、その上にB一杯に延びる筒状アームを配設して、Rを筒状アームの先端(すなわち、Bの最も外側)で受けるようにしたことを特徴とするものであって、このような構成は、当業者ならば特許請求の範囲の記載から明確に理解することができる。
この点について、原告は、審決は二重樋状案内部材をどのような長さとし、これをどのようにして車体へ連結するのか全く判断していない旨主張する。
しかしながら、Rを筒状アームの先端で受ける構成を得るために、二重樋状案内部材が特定の長さでなければならないとする技術的理由はない。また、本件発明は二重樋状案内部材を車体へ連結する方法を特徴とするものではなく、実施例で使用されている「かすがい状支持部材」のほか、本願明細書に記載されている「バンド又はコ字状金具等」(公報4欄33行、34行)の周知の連結手段を採用することができるから、原告の上記主張は失当である。
2 また、原告は、筒状アームの配設位置について、「二重樋状案内部材の両案内路の一端部上側位」は、「二重樋状案内部材の互いに対向する両案内路の一方の端部の上側位置あるいは上方」と解されるとした審決の判断は、失当である旨主張する。
しかしながら、本件発明の特許請求の範囲記載の「二重樋状案内部材の両案内路の互いに対向する一端部」が、二重に構成されている案内路それぞれの、水平ビームが出入れされる側の端部を意味することは明らかである。また、特許請求の範囲記載の「上側位」が、発明の詳細な説明に「水平ビームの頂壁上側」(11欄23行)と記載されているように「上側」の意味であって、「上の側方」の意味でないことも明らかであるから、原告の上記主張も失当である。
3 以上のとおりであるから、原告主張の無効理由1は採用できないとした審決の判断に誤りはない。
理由
第1 原告の主張1(特許庁における手続の経緯)、2(本件発明の特許請求の範囲1)及び3(審決の理由)は、被告も認めるところである。
第2 甲第3号証(公告公報)によれば、本件発明の概要は次のとおりと認められる(別紙図面参照)。
1 技術的課題(目的)
本件発明は、トラッククレーンにおけるアウトリガに関するものである(2欄1行、2行)。
トラッククレーン等の特殊車両における従来のアウトリガとしては、例えば、第11図に図示されているようなものがある(2欄4行ないし6行)。
しかしながら、このような従来のアウトリガは、水平ビーム30端部の伸縮支脚4に発生する反力Pを、水平基筒31、箱状ブラケット32、ブラケット33を介して車体フレーム1側に伝達し、かつ、張出し時における水平ビーム30と水平基筒31間に発生する強大な曲げモーメントを車体フレーム1側に伝達する構成のものであるので、各部、殊に水平基筒31全体を肉厚にする必要があり、その結果、アウトリガ全体の重量増、ひいてはトラッククレーンの荷役能力の低下を招く等の問題点があった(4欄15行ないし5欄15行)。
また、水平基筒31内に水平ビーム30を格納し、水平ビーム30の端部に設けた伸縮支脚4を車体巾B内に納めようとすると、水平基筒31の長さEが、車体巾Bから少なくとも伸縮支脚4の外径dの2倍を引いた長さになるので、水平ビーム30、30の最大伸長量が減少し、ひいてはトラッククレーンの限界転倒モーメントが相対的に減少し、荷役作業時、殊に伸縮ブーム28の起伏角θの小さい範囲におけるトラッククレーンの支承安定性が低下するという問題点もあった(5欄16行ないし33行。補正の掲載の記3行目)。
本件発明の目的は、従来技術の上記のような問題点を解決することである。
2 構成
本件発明は、上記の技術的課題を解決するために、その特許請求の範囲記載の構成を採用したものである(1欄2行ないし25行)。
3 作用効果
本件発明によれば、
a 底板端部に外開き切欠を有し、端部が車体巾一杯に伸びる筒状アームの基部を車体フレーム側部に設けているから、伸縮支脚付水平ビームを車体巾内に格納できる、
b 筒状アーム端部の側板下部に、水平ビーム頂部の受面付補強片を一体状に設けているので、筒状アームの底板端部に外開き切欠を設けたにもかかわらず、筒状アーム端部の十分な曲げ剛性を確保できる、
c アウトリガの最小縮小巾の増大を招くことなく、筒状アーム端部の曲げ剛性を確保できるから、水平ビームの伸長時における伸縮支脚の最大スパンを従来例より増大でき、トラッククレーンの限界転倒モーメントが増大し、安全荷役作業領域が増大する
との作用効果を得ることができる(10欄32行ないし11欄4行)
第3 そこで、原告主張の審決取消事由の当否について検討する。
1 原告は、本件明細書には本件発明の要件である二重樋状案内部材の構成が明確に記載されていない旨主張する。
検討すると、前掲甲第3号証によれば、本件明細書には、
a 「水平ビーム3は2個一組が互いに逆向きに、車体フレーム1下側に、後述の二重樋状案内部材23により、横方向に摺動自在に支承される。」(7欄18行ないし21行)
b 「23は車体フレーム1の両側のかすがい状支持部材18、18に支持させた水平ビーム3の、少くと共、底部を案内する案内路23D、23Dを構成する二重樋状案内部材で、該二重樋状案内部材23により両端のかすがい状支持部材18、18が剛に連結される。23a、23bは二重樋状案内部材の底板及び側壁で、中央の側壁23bは共通のものとして構成される。」(8欄17行ないし25行)
c 「二重樋状案内部材23は肉薄の板で断面が長方形をなす軽重量のものとして構成され、単に水平ビームの引込み、張出し時における支持部材18、18の振れ止め及び摺動案内と、トラッククレーンKの路上走行時における水平ビーム3の振れ止めをする。」(9欄11行ないし16行)
d 「アウトリガの使用時に、二重樋状案内部材23の中央隔壁板23bに発生する応力は極めてちいさいから、この二重樋状案内部材23にはアウトリガの使用時における強度保持機能を持たせる必要はなく、単に水平ビーム3の案内機能や水平ビーム3伸縮時における支持部材18の振れ止め機能を持たせるだけの軽量に構成でき」(10欄6行ないし13行)
と記載されていることが認められる(別紙図面参照)。
これらの記載によれば、本件発明の要件である二重樋状案内部材は、互いに逆向きに摺動する一対の水平ビームを支承・案内する一対の部材であって、その内部に収納している水平ビームの頂壁を筒状アームの底板下面で受けるようにするため、共通の中央壁の両側にそれぞれ底板及び側壁のみを設け、上面を開放した樋状の構造のものであることが一義的に明らかである。
この点について、原告は、審決は二重樋状案内部材の断面形状を述べているにすぎず、二重樋状案内部材をどのような長さとし、これをどのようにして車体へ連結するのか判断していない旨主張する。
しかしながら、前記のような本件発明の目的からすれば、二重樋状案内部材の長さが車体巾Bより小さく、かつ、水平ビームの支承・案内機能を果たすことができる長さであるべきことは、技術的に自明の事項である。また、二重樋状案内部材が車体に連結されねばならないことは当然であるが、その連結手段は、二重樋状案内部材が前記のように強度保持機能を持たせる必要がなく、軽量に構成できるものである以上、実施例で使用されている「かすがい状支持部材」を始めとして、「バンド又はコ字状金具等」(公報4欄33行、34行)、周知の連結手段を適宜に採用することが可能と考えられるから、単なる設計事項にすぎないというべきである。
そうすると、本件明細書には本件発明の要件である二重樋状案内部材の構成が明確に記載されていない旨の原告の主張は失当である。
2 また、原告は、筒状アームの配設位置を「二重樋状案内部材の互いに対向する両案内路の一方の端部の上側位置あるいは上方」とした審決の判断は失当である旨主張する。
しかしながら、本件発明が前記のような作用効果を実現するためには、二重樋状案内部材の内部に収納されている水平ビームの頂壁が筒状アームの底板下面に当接しなければならないことは技術的に自明の事項である。したがって、本件発明の特許請求の範囲1記載の「二重樋状案内部材の両案内路の互いに対向する一端部」が、一対の案内路それそれの、水平ビームが出入りする側の端部の意味であること、また、同記載の「端部の上側位」が、各案内路の直上の意味であることは、当業者にとって疑問の余地がないというべきである。
そうすると、本件明細書の記載では筒状アームの配設位置が不明確である旨の原告の主張も失当である。
3 以上のとおりであるから、原告主張の無効理由1は採用できないとした審決の認定判断は、正当であって、審決には原告主張のような違法はない。
第4 よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は、失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成10年10月27日)
(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 春日民雄 裁判官 宍戸充)
別紙図面
<省略>
1……車体フレーム、1B……側壁、3……水平ビーム、4、5……伸縮支脚、7……筒状アーム、9……底板、12……隔壁板、13……切欠、14、15……補強片、14A、15A……受面、14B、15B……ガイド片、23……二重樋状案内部材、23D……案内路。
理由
[1](手続の経緯・本件発明の要旨)
本件特許第1665937号発明(以下、本件発明という)は、昭和52年9月7日に出願した特願昭52-106799号を分割した特願昭55-62781号をさらに分割した特願昭63-225259号であって、平成2年3月27日に出願公告(特公平2-12781号公報参照)された後、平成4年5月29日に設定登録されたものであって、その発明の要旨は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された次のとおりのものと認める。
「1、車体フレーム下側の横方向に設けた二重樋状案内部材の両案内路の互いに対向する一端部上側位に、端縁が当該車体巾一杯に延びる筒状アームを配し、該筒状アームの基部を前記車体フレームの側壁部に固着すると共に、前記筒状アームの底板下面が、前記両案内路に伸縮可能に挿入され、断面が長方形状をなす水平ビーム頂壁の受面として構成され、かつ、前記筒状アームの底板端部に、前記水平ビーム端部に突設された伸縮支脚上部の遊嵌可能な外開き切欠を形成すると共に、該外開き切欠まわりの側板下部に、前記水平ビーム頂壁の受面を有する補強片を一体状に設けたことを特徴とするトラッククレーンにおけるアウトリガ。
2、前記底板端部の外開き切欠まわりの側板下部に、一体状に設けた補強片の下端が下方に延長され、前記水平ビームの頂壁側面のガイド片を構成したことを特徴とする特許請求の範囲第1項記載のトラッククレーンにおけるアウトリガ。
3、前記筒状アームの底板端部の外開き切欠より内側位に、該筒状アームの底板、頂板、側板を連結する隔壁板を溶着したことを特徴とする特許請求の範囲第1項記載のトラッククレーンにおけるアウトリガ。」
[2](請求人の主張)
2-1、これに対して、請求人は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成、作用、効果が記載されておらず、又は本件特許の明細書の特許請求の範囲には、発明の構成に欠くことができない事項以外の、意味又は内容不明の事項、が記載されているので、本件特許発明は、特許法第36条第4項及び第5項に規定する要件を満たしていないから、同法第123条第1項第3号に該当し無効にされるべきであると主張している(以下、無効理由1という)。
そして具体的に次の事項を主張している。
2-1-1、本件特許発明における「二重樋状案内部材」の目的、構成、作用、効果不明であるとし、その理由として、「本件特許発明の実施例の説明文中では、「二重樋状案内部材」の役割は「かすがい状支持部材」と関連させながらある程度詳細な記述がなされているが、特許請求の範囲には「かすがい状支持部材」が特定されていないため、「二重樋状案内部材」がそれ自体単独でどのような位置づけにあるのか全く不明である。」及び「本件特許の明細書の実施例の説明文中に「二重樋状案内部材」について「断面が長方形状」と図面と一致しない記載等があり、「二重樋状案内部材」は、「頂部の開放するもの」をいうのか、あるいは「頂部の開放しない、直角長四辺形状」のビーム案内部材(従来公知の「案内基筒」にあたる)についでまでいうのか不明である。」等を挙げている。
2-1-2、特許請求の範囲中における「二重樋状案内部材の案内路の一端部上側位に、・・・筒状アームを配し、」という記述部分の意味不明であるとし、その理由として、「前記2-1-1のように「二重樋状案内部材」それ自体の構成が不明瞭である以上、「二重樋状案内部材の両案内路」、「二重樋状案内部材の案内路の一端部」及び「二重樋状案内部材の案内路の一端部上側位」の意味も不明瞭とならざるをえず、また「上側位」というものが、実施例図面(たとえば、第4図、第6図)中でどの部分に該当するのかも不明である、というものである。
2-2、また請求人は、甲第1乃至15号証を提出し、本件特許発明は、甲第3、4、5、6、12、13及び14号証に記載されたものから当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に基づき特許を受けることができないものであるから、同法第123条第1項第1号により無効とされるべきであると主張している(以下、無効理由2という)。
なお、請求人は、「Ⅱ、本件特許の無効理由 その1(特許法36条4項・5項違反)についての序論」において、争点1乃至争点4について主張しているが、これらの記載内容は、仮処分命令申立事件等においての当事者間の争点を列挙したものであり、請求人による正規の無効理由とは認められないため、これらについては判断をしない。
[3](被請求人の主張)
一方、被請求人は、請求人の2-1-1の主張に対し、「本件特許明細書及び図面中には「二重樋状案内部材」の具体的な構造を示す実施例が記載されると共に、それが水平ビームの伸縮案内と格納機能、すなわち、その作用、効果を奏する旨の明確な記載があり、この「二重樋状案内部材」に関する明細書及び図面の記載には何等の不明瞭性はなく、また「断面が長方形状」の記載については、「その記載は、本件特許発明の実施例に関する記載であって、その実施例における二重樋状案内部材は、薄肉の断面が頂部の開放する長方形状をなす軽量のものとして構成されの趣旨である」と主張し、
請求人の2-1-2の主張に対し、「前記のように「二重樋状案内部材」の構成に関する記載に格別不明瞭な点がない以上、本件特許発明におけるその「両案内路の一端部」が、「二重樋状案内部材の両方の案内路の(互いに対向する)一方の端部」であり、「二重樋状案内部材の案内路の一端部上側位」は、「二重樋状案内部材の両方の案内路の(互いに対向する)一方の端部の上側位置(又は上方)」であることは、本件特許明細書及び図面の記載をこの発明の属する技術の分野における通常の知識を有するものが通常の読み方をすれば、何等の紛らわしさを伴うことなく明白に把握できることであって、この記載には何等の不明瞭性はない。」と主張している。
[4](証拠)
そして、請求人が前記無効理由2の根拠としで提出した本件発明の特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証(Engineering and Construction Worldの表紙及び第46頁、1966年4月号)には、「車体の下部に水平ビームを伸長してなるアウトリガを有するクレーン車」が記載され、
同甲第4号証(MECHANICAL HANDLINGの表紙、目次及び第275頁~277頁、1959年5月)には、「水平ビーム案内筒車体フレーム下部に車巾一杯に設けられ、且つ該水平ビーム案内筒の端部には、切欠が設けられたアウトリガ」が記載され、
同甲第5号証(実開昭50-23810号公報)には、「基筒7の両先端と車体との間には、ブラケットが介在され、基筒7の端部に負荷される極圧が該ブラケットで支承してなるアウトリガーの防護装置」が記載され、
同甲第6号証(特公昭47-46731号公報)には、「支持ケース2の先端と走行車フレーム1との間にブラケットを介在してなる走行可能なクレーン、掘削機および類似の作業機械用の液力式支持装置」が記載され、
同甲第12号証(米国特許第3338426号明細書)には、「ハンガーアセンブリ22、22の間に一対のビーム26、26が設けられており、各ビーム26の中には水平ビームが収容されていると共に、傾斜した支持部材28がビーム26の各端部に固着されるトラッククレーン」が記載され、
同甲第13号証(実公昭39-30201号公報)及び同甲第14号証(実公昭52-18492号公報)には、「2本の水平ビーム案内筒を一体化してなるアウトリガ」がそれぞれ記載されている。
[5](無効理由1に対する判断)
2-1-1について
まずは、特許請求の範囲の請求項1に記載される「二重樋状案内部材」について、本件発明の明細書を精査すると(以下、記載箇所については、公告公報に従う)、本件発明の課題について「前記第9図ないし第12図に示すような従来のトラッククレーン等の特殊車両におけるアウトリガにあっては、水平ビーム30端部の伸縮支脚4に発生する反力Pを、水平基筒31、箱状ブラケット32、ブラケット33を介して車体フレーム1側に伝達する構成のものであり、しかも、車体横方向の限界転倒モーメント38の増大を図るため、張出し時における水平ビーム30と水平基筒31間に発生する強大な曲げモーメントに耐え、それを車体フレーム1側に伝達可能にする必要があり、各部、殊に、水平基筒31全体を肉厚にする必要があり、その結果、アウトリガ全体の重量増を招くことになり、これは近時の道路交通法規による車軸荷重の制限強化に照らし、好ましくないという問題があった。(公報第2頁第4欄第15~29行目)(以下、課題に関する記載事項という)」と記載され、実施例の欄には、「二重樋状案内部材23は肉薄の板で断面が長方形状をなす軽重量のものとして構成され、単に水平ビーム3の引込み、張出し時における支持部材18、18の振れ止め及び摺動案内と、トラッククレーンKの路上走行時における水平ビーム3の振れ止めをする。(公報第5頁第9欄第11~16行目)(以下、第2の記載事項という)」及び「なお、本件発明者の調査によれば、このアウトリガの使用時に、二重樋状案内部材23の中央隔壁板23bに発生する応力は極めてちいさいから、この二重樋状案内部材23にはアウトリガの使用時における強度保持機能を持たせる必要はなく、単に水平ビーム3の案内機能や水平ビーム3伸縮時における支持部材18の振れ止め機能等を持たせるだけの軽量に構成でき、この実施例のものでは、従来例のように、水平ビームに係る荷重を、一旦水平ビームの支持基筒(二重樋状案内部材23)により受止めた後、これを更に車体フレームに伝達するものに比し、トラッククレーン等の重量をかなり(5%程度)軽減でき、しかも、伸縮支脚4、5を含めた水平ビーム3、3の長さを、車体横巾一杯にすることができる。(公報第5頁第10欄第6~20行目)(以下、第3の記載事項という)」と記載され、さらに第6ないし8図には、「頂部が開放した断面コ字状から構成される二重樋状案内部材(以下、図示の記載事項という)」が図示されている。そして他に「二重樋状案内部材」を特定する記載はなく、また一般に、「樋」ないしは「樋状」とは、上部が開放した形状を有するものとして認識されている。
してみると、「二重樋状案内部材」は、前記図示の記載事項のように「頂部が開放した断面コ字形状のもの」としてその構成を特定することができる。
なお、前記第2の記載事項中の「断面が長方形状」の「長方形状」は、単なる誤記あるいは前記「頂部が開放した断面コ字形状のもの」を意味する用語として用いられたものにすぎない。
さらに、前記課題に関する記載事項、第2の記載事項及び第3の記載事項に基づけば、「二重樋状案内部材」は、課題を解決すべき具体的手段として、従来の断面長方形状の水平基筒に代えて採用された手段であると認めることができ、その「二重樋状案内部材」は、「水平ビーム3の案内機能や水平ビーム3伸縮時における支持部材18の揺れ止め機能」という技術的意義と共に「非強度保持機能」という技術的意義をも合わせ持つもの、別言すれば、「二重樋状案内部材」は、水平ビームの案内及び支持を行なうと共に、少なくともそれ自体に本件発明の明細書に記載される「極圧Q」が直接掛からないものとして解することができる。そして、このように解することができることは、本件発明が昭和52年9月7日に出願した特願昭52-106799号(以下、原々出願という)を分割した特願昭55-62781号をさらに、かつ適正に分割した出願である以上、本件発明は原々出願の明細書に記載された発明であることを要するところ、原々出願の明細書には、本件発明の「二重樋状案内部材」の名称につき、「案内部材(二重案内樋)」という表現上の差異はあるものの、本件発明の明細書に記載される前記課題に関する記載事項、第2の記載事項及び第3の記載事項とほぼ同様な事項が記載されるのみで、該「案内部材(二重案内樋)」を従来のような断面長方形状の水平基筒でもよいとする記載、あるいはそれ自体に直接前記極圧Qを作用させるようなものでもよいとする記載は一切ないことからも窺い知ることができる。
なお、前記第2及び第3の記載事項は、実施例の欄に記載される事項ではあるが、通常発明の要旨の一部として記載されている用語の技術的意義等についての把握は、実施例も含めた明細書全体から行われており、格別問題はない。
すなわち、「二重樋状案内部材」について、本件発明の明細書には、構成及びその技術的意義についてその発明の属する技術の分野における通常の知識を有するものが容易にその実施をすることができる程度に記載されているものである。
次いで、「二重樋状案内部材」と「筒状アーム」との関係についてみると、本件発明の明細書の特許請求の範囲には、両者間の連結手段について、何等の限定もなされていないが、両者間に何等かの連結手段が必要なことは、その明細書の記載より明らかであり、形式的には本件発明の明細書の特許請求の範囲には、発明の構成に欠くことができない事項が記載されていないといえるが、前記したように連結手段が必要なことは明らかであり、どのような連結手段が想定されるかについては、同明細書の記載及び本件発明の出願前の技術常識に基づき、例えば明細書の実施例として記載される「かすがい状支持部材」、あるいはバンドのような自明の手段等を想定することができるため、実質的には違法性があるとはいえない。
すなわち、本件発明の特許請求の範囲には、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項が記載されていないとはいえない。
なお付言すると、本件発明の「二重樋状案内部材」は、前記したように強度保持機能を有しないものとして特定されるところから、少なくとも二重樋状案内部材それ自体に本件発明の明細書に記載される「極圧Q」が直接掛かるような連結手段、例えば「二重樋状案内部材」と「筒状アーム」とを直接連結し、その結果、「二重樋状案内部材」で前記極圧Qを直接受けるようになる連結手段は想定し難い。
したがって、2-1-1で請求人が主張した点について本件発明の明細書の記載に格別の不備があるものと認められないため、請求人の主張を採用できない。
2-1-2について
「二重樋状案内部材」が不明瞭でないことは、2-1-1で述べたとおりであり、してみると「二重樋状案内部材の両案内路の一端部」は、「二重樋状案内部材の互いに対向する両案内路の一方の端部」と解され、また、「二重樋状案内部材の両案内路の一端部上側位」は、「二重樋状案内部材の互いに対向する両案内路の一方の端部の上側位置あるいは上方」と解され、これらの点に不明瞭性はない。
したがって、2-1-2で請求人が主張した点について本件発明の明細書の記載に格別の不備があるものと認められないため、請求人の主張を採用できない。
[6](無効理由2に対する判断)
本件発明の要旨は、前記[1]に記載したように「二重樋状案内部材」、「端縁が当該車体巾一杯に延びる筒状アーム」、「筒状アームの底板端部の外開き切欠」及び「外開き切欠まわりの側板下部の補強片」の各構成要素を有機的に結合させた点に特徴を有し、その結果、本件発明の明細書の効果の欄に記載される本件発明特有の効果を奏するところ、請求人が提出した甲第3、4、5、6、12、13及び14号証には、前記[4]で記載したように前記構成要素の一部が記載されてはいるが、各構成要素全てを有機的に結合させたものはなく、また甲各号証に記載されたものを寄せ集めたとしても本件発明を構成すべくもない。
すなわち、本件発明は、甲第3、4、5、6、12、13及び14号証に記載される発明から当業者が容易に発明できたとすることができないため、請求人の主張を採用できない。
[7](むすび)
したがって、本件発明についての特許は、特許法第36条第4項及び第5項、さらには同法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるとする請求人の主張には理由が無いため、本件発明についての特許を無効とすることはできない。